最近、勃起のメカニズム、特に血流動態から見た勃起のメカニズムの解明が進んできました。まず勃起に関与する血管系について述べてみますと、陰茎は尿道海綿体と一対の陰茎海綿体からなっています。尿道海綿体はその中央を尿道が貫いており、その先が膨らんで亀頭となっています。尿道は尿の通り道であるばかりでなく、性行為の際には精液の通り道にもなります。勃起の際には陰茎海綿体内圧は収縮期血圧(最大血圧)に近い高圧になり、挿入に必要な硬さを発現するわけです。

一方、尿道海綿体と亀頭は低圧のままで、精液が尿道内を抵抗なく射出されるようになっているだけでなく、亀頭は硬くならないので性交時、女性の性器を保護するクッションの役割も果たしているのです。

陰茎への血液は、下大動脈から分かれた総腸骨動脈から更に分岐した内腸骨動脈の枝である内陰部動脈より始まり、陰茎に入る直前に陰茎背動脈、陰茎深動脈、球動脈、尿道動脈に分かれ供給されます。勃起発現に重要な血液の供給をつかさどるのは左右一本ずつある陰茎深動脈(陰茎海綿体の中央を貫く動脈で海綿体動脈ともいいます)です。陰茎深動脈は陰茎の根元から陰茎海綿体内に入り、陰茎海綿体洞に血液を供給するためのらせん動脈を出しながら先端の方へ向かって縦走します。

陰茎深動脈よりに分岐したらせん動脈が陰茎海綿体洞に開口する直前に平滑筋よりなる弁構造(ポルスターとかパッドと呼んでいます)があり、このらせん動脈を介した循環系には二つのルートがあります。

その一つが海綿体洞に直接開口するルートです。この弁の開閉により勃起が起こったり、勃起が消退したりするという説と、この弁構造は勃起が完成したときに海綿体内圧が血圧を超えることがあり、血液が海綿体内より動脈側に逆流するのを防止する働きをしているという説がありますが、恐らく両者の働きを持っているものと思われます。

さて、らせん動脈とか陰茎海綿体洞の壁(海綿体小柱)には従来からの副交感神経であるアセチルコリン作動性神経線維や、70年代より注目されるようになった交感神経でも副交感神経でもない非アドレナリン・非コリン作動性神経線維が多数分布しています。

最近、神経伝達物質である一酸化窒素(NO)を合成するNO合成神経線維もこれら血管周囲や海綿体小柱に密に分布しており、NOが現在最も重要な神経伝達物質の一つと考えられるようになりました。これらの神経がらせん動脈や海綿体小柱の平滑筋を弛緩させ、血液が陰茎海綿体洞に一気に流入して勃起が起こることがわかりました。

一方、陰茎海綿体洞を出た流出静脈(後海綿体小静脈)は白膜の下をしばらく走った後、何本か合流して貫通静脈となって白膜を垂直あるいは斜めに貫通して深陰茎背静脈に合流します。もう一つのらせん動脈のルートは、海綿体洞に入らず、そのまま白膜に向かい毛細血管網になり、白膜下で白膜下静脈叢を形成し白膜を貫く貫通静脈と合流し流出します。この血管構築から海綿体洞が血液で充満し膨張すると流出静脈系は白膜との間に圧迫されて陰茎外への血液の流出が阻止されて弁の役割を演じ勃起が維持される仕組み(これが静脈系の閉鎖機構と言われるものです)になっています。

勃起が消失するメカニズムは、らせん動脈や海綿体小柱内に従来からの交感神経であるアドレナリン作動性神経線維も密に分布しており、また神経ペプチドY(NPY)も密に分布しています。またエンドセリンも海綿体内皮細胞より分泌され、これらペプチド(二つ以上のアミノ酸が結合したもの)は平滑筋を収縮させる作用があり、海綿体洞への流入血液量を減少させ、さらに海綿体小柱も収縮して海綿体洞より血液の流出を促進し、勃起を速やかに終わらせると考えられています。

そして非勃起状態では海綿体小柱の平滑筋は収縮した状態を保ち血液が入らないようにしていますが、これは主としてエンドセリンの働きによると考えられています。以上、述べてきたように、勃起は陰茎海綿体洞に流入するらせん動脈や海綿体小柱の平滑筋が自律神経の作用で弛緩することにより起こり、収縮することにより消失することが明らかになりましたが、陰茎内でのより詳細なメカニズムもわかってきました。

すなわち、副交感神経の終末より放出されるアセチルコリンは海綿体洞や血管内面を覆っている内皮細胞に作用してNO合成酵素(eNOS)により合成されたNOを放出すると共に交感神経に抑制的に作用し、また非アドレナリン・非コリン作動性神経にも作用して、その末端よりNO合成酵素(nNOS)によりNOの合成を促進させてNOを放出させます。これらNOが海綿体細胞内に浸透し細胞内の可溶性グアニル酸シクラーゼ(酵素)を活性化させ、この酵素はサイクリック・グアノシン・1燐酸(サイクリックGMP:cGMP)を生成する反応を促進します。増加したcGMPは細胞内のカルシウムイオンのレベルを低下させ、このカルシウムイオン濃度が低下すると平滑筋細胞は弛緩するわけです。このように、増加したcGMPが陰茎海綿体や動脈の平滑筋を弛緩させると血管が開いて血液が海綿体洞に流入して勃起が起こります。

産生されたcGMPはホスホディエステラーゼ(PDE)という酵素により加水分解され活性を失いますが、PDEには1-9のアイソザイム(同じPDEだが、臓器により分布も作用も異なる同位酵素)が知られており、陰茎海綿体にはPDE‐5が豊富に存在し、cGMPの分解に強く関与しています。このPDE‐5の働きを特異的に阻害するのがクエン酸シルデナフィル(バイアグラ)です。バイアグラを投与するとPDE‐5の働きが阻害され、作られたcGMPが加水分解されずcGMPが増加して勃起が促進されるわけです。

一方、陰茎の勃起状態が終了する際には交感神経終末より放出されるノルアドレナリンなどによって動脈及び海綿体内の平滑筋が収縮すると流入血液量は減少し圧迫されていた静脈系も解放され陰茎は元の状態に戻ります。


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